時間銀行


 <2×××年 人類の平均寿命167歳>

 さあさあちょいと寄ってらっしゃい見てらっしゃい。おぅ、そこの姉さん。いやぁ、美人だねえ。ええ、クレオパトラか楊貴妃か、でなけりゃ小野小町の再来かってとこだね。
 時間銀行に寄ってかないかい? え、なに。急いでる。そう言わないでさ。
 なんだい走って逃げちゃったよまあ……ええ、よく見たら美人じゃあなかったよ。年増だねありゃ。
 お、ほら、兄さんたち。寄ってきなよ。時間銀行に用はないかい。
 うん、「時間銀行ってなんだい」だって? 嫌だよ、遅れてるね。これからはこいつの時代だよ。寿命もね、ずいぶんと長くなったしね。
 簡単に言やぁ、時間の、銀行だあな。うん。そのまんまだけどもさ。
 普通の銀行とおんなじだよ。いらない時間をな、預けるんだよ。そうしたら利子ぃつけて返してやるからね。手数料なんてなあ、そんなもんいらないよ。
 それでね、ええ、反対にね、時間を貸すのもやってるんだよ。まあこちとらお国に金出してもらってるんじゃない、商売だからな、必要以上は貸さないし、もちろんあとで余分に返してもらうけどね。
 商売になるのかって? なるともさ。借りた時間をそのまんま貸してな、返せなかったら担保で出してもらうんだから……
 そりゃぁ預けてつく利子より貸すときにつける利子のほうが大きいけどね。しょうがないよ。私だって飢え死にしたかないよ。
 で、どんな風に使ってるんだって。え、いろんな人がいますよ。
 若いうちいっぱい働いてね、寝る時間も削ってそれを預けて増やして、老後長くのんびり暮らそうって人とかね。
 勉強するのに時間が足りないってんで切羽詰まっちゃって、ちょっとだけ借りてく人もいるよ。
 中にはね、今のうち時間を借りてね。うん。青春を長く楽しもうってんだな。それでよぼよぼで足ぃ立たなくなる前に時間返してぽっくりいっちゃおうってえ魂胆の無責任な人とかもいたね。
 ん? それじゃ一日の時間が一人一人違っちゃうって? 大丈夫だよ。今までなんも問題はなかったよ。世の中ってえのはね、うまく出来てるもんなんだからさ。
 どうやって時間を貸し借りしてるか。それはね、さすがに言えないよ。企業秘密ってやつだよ。ん。ホントのこと言うとね、私もそこはよくわかっちゃいないんだよ。出来るんだから出来るんだってえもんだ。男がね、そんなこまっかいこと気にしちゃダメだよ。なあ。
 え、それでどうするんだい。やってみるかい?
 うん。そっちの兄ちゃん預けるって。ほいきた。したらあな、向こうの1番の扉ん中いってな。この紙ぃ出しといで。
 そっちはなんだい? 預ける? どんくらいだい。なに、三十分? ずいぶん短ぇな。デートの待ち時間だって? しょうがねえな。んっとに……
 まあいいよ。じゃあ二番のドアだよ。おうおう、押すんじゃあないよ。引くんだよ。あ、これ、何もそんなに乱暴に開け閉めするこたあない。この前利子に文句つけてきた人が蹴っ飛ばして穴ぁ開けてね、そこ付け替えたばっかなんだから。
 そっちの奥さん、借りたいって? お玉一杯分? なんだい、うちは味噌貸してるんじゃないんだよ。

 やれやれ全く大変な騒ぎだったね。
 しかしなんだね。お客はすごく増えているんだけどもさ、ええ、特に借りる人がね。けどね、なかなか返してくんないんだよ。
 もうちょっともうちょっとって泣いて頼んでさ、こっちが少し情けを出してやるってえと図に乗っちゃうからね。
 この前なんてね、取り立てに行って危うくこっちが殴られかけちゃったよ。ひどいもんだよ。
 そうすると今度は手元に時間が少なくなると来て、こんなんじゃ貸し渋りしちゃうのもしょうがねえやな。
 うん。どうしたい? 騒がしいな。なに、隣町の田中さんが交通事故で死んじゃった?
 おいおい、うちはあの人に五十年分も時間貸してんだよ。病気知らずで健康だって言うから信用貸しで担保も取ってないよ。
 家族が集まって泣いてる? こっちが泣きたいよホントに。

 うわっ、なんだいなんだい。突然ぐらぐらーっと来たな。今のは大きいぞ。棚が倒れちゃってるよ。ああほら、慌てんじゃないよ。もうおさまったよ。誰だい椅子の下にすっぽり納まっちゃってんのは……そんな狭苦しいとこ入ったっておんなじだよ。
 しかしすごかったね。ちょっとニュースつけてみな。うん。
 おう、ありゃこの割と近くだよ。ひでえもんだな。ビルが、あーあー。崩れちゃったよ。
 死亡者数見込み数千人だか数万人だかだってさ。するってえと、弱っちゃったな。この辺りのほとんど人には時間貸してたからね。みんな貸した時間あの世に持ってっかれちゃったよ。
 どうしようね、大赤字だよこりゃ。時間が赤くなったり黒くなったりするのかわからねえけども。
 預けられた時間もね、利子どころか元も返せないよ。

 ええ、しょうがないね。この銀行置いて逃げちゃおう。足りない分の時間はどうするんだって? 知らないよ。私の時間全部つぎ込んだって足りないんだから。なるようになるよ。
 それじゃ行きますよ私は。え、すぐにでも逃げられるんだよこんなとこ。すたこらさっさとね。
 ん、なに? 表にも裏にも人が押しかけてきてる? 時間返せって?
 凄い声だな。はいはいはい、出るよ出るよ。
 うん、言いたいこたわかるけどね、んなこと言われたってね、ないんだよ時間が。
 そりゃこの建物は壊れなかったし、ちょっとは残ってるよ。奥にね。
 うわ、こら、そんな大勢で入ったら床が抜けちまうよ。
 あーだめだめっ。それは大事な機械なんだよ。なに壊そうとしてるんだい。あ、あ、ほら見ろ。せっかく残ってた時間がみんな飛んでっちゃったじゃないか。
 もうおしまいだよホントに。これ以上は私の知ったことじゃないよ。
 馬鹿馬鹿しい。もうどうにでもなれってんだ。

<2×××年 史上最大規模の地震発生 人類の平均寿命32歳>

 ―了―
後書きを表示する
 思いついてすぐに書き上げたバカな話でした。とりあえず落語を意識した文体にしてみる。挫折。
 セリフが無いからか妙に読みづらく……

<01/11/13>
BACK/TOP