●Novegle対応ページ ◎作者:プロト◎長さ:SS◎あらすじ:新月の夜に目を覚ました赤い可憐な棘のない薔薇。そんな彼らに誰が名付けた。ブラッド・ベリィ・ロゥズ。なんてなんて、安直な名前! ショートショート。
棘のない薔薇


 蒼い水の星となって何十億年。幾多の物を生み出してきたこの地球に、今日また一つ、命が生まれる。
 新月の夜に目を覚ました、小さく可憐な棘のない薔薇。
 突然の大量発生に偉い学者は大慌て。新種か変異か何かの予兆か。色々話は飛んだけれども、どんな薔薇より美しくて、おまけに邪魔な棘がないとくれば、そりゃ人間が放っておくはずがない。
 『最新テクノロジィ』とやらで培養培養培養。週が二つ巡る頃には、世界中に広まっていた。
 綺麗で安くて手間要らず――小聡い商人達の合言葉。

 赤い可憐な棘のない薔薇。そんな彼らに誰が名付けた。
 ブラッド・ベリィ・ロゥズ。
 なんてなんて、安直な名前!


        *


「ねえ、今度あの薔薇をちょうだい」
「どの薔薇?」
「棘のない薔薇」
「棘の……ああ、あれか」
「綺麗よね。薔薇は好きだけど、他の物は棘があるから嫌だったの」
「棘があるのって、そんなに嫌なことかな?」
「だって痛いし、邪魔じゃない」
「それはそうだけれど」
「薔薇は臆病なんだって、何かで聞いたわ。たくさん棘を生やして身を守ろうとしてる」
「身を守る?」
「刺さったら傷が出来るもの。触りたくないわ」
「そうだね。血が出るよね。薔薇は、賢いよ。臆病なんかじゃなくて」
「そうかしら。なら、棘をなくしたのはなぜ?」
「気付いたからかな」
「何に?」
「棘があると、嫌われるって」


 棘は人を傷つける。臆病? 慎重? 堅固? どんな言葉で飾っても変わらない。
 棘がなければどうなる? それこそこの薔薇。棘のない薔薇。なるほど人はこの可憐な薔薇を愛してる。


「ふふ。人間に好かれたいの? そうね、私は好き。あなたは? なんだか嫌いっていう顔をしてる」
「そんなことないけど」
「なら、ちょうだい。今度の記念日に」
「うん……」
「なあに。やっぱり嫌いなの」
「嫌いじゃあないよ。けど」
「けど、なあに。棘のある薔薇のほうが好き?」
「好きっていうのとは、違うかもしれないけど」
「嫌いじゃあないんでしょ」
「嫌いじゃあないよ」
「同じことを言ってる。ねえ、くれないの」
「どうしても欲しい?」
「欲しいわ」
「うん。わかった」


 棘の鎧を脱いだ薔薇。どこかで誰かがそう言っていた。
 退化だ進化だいや違う、偉い学者はまだまだ騒いでいるけれど、薔薇はそんなこと気にしちゃいない。賢い彼らは自分達の望むようにするんだから。
 人に愛され、抱きしめられて。

 赤い可憐な棘のない薔薇。そんな彼らに誰が名付けた。
 ブラッド・ベリィ・ロゥズ。
 なんてなんて、安直な名前!


        **


「いらっしゃい。あら、買って来てくれたの?」
「うん。記念日だから」
「ええ。私たちの記念日。――いい香りね」
「花ビンどこかな」
「キッチンに。いいわ。私が飾っておくから。あなたはここで待ってて」
「うん。テレビ、つけるね」


 夜。真っ黒な夜。月は満ちて欠けて、新月。
 月は新しくならないけれど、新しい何かが生まれて、そして目を覚ます。記念日。そう、記念日だ。
 棘は人を傷つける。人は彼らを嫌う。もし月が人を傷つけたならそれも嫌うんだろう。満月。半月。三日月。
 なら、新月は?
 見えない月が照らすのは、赤く可憐な棘のない薔薇。


 がしゃ。がしゃん。ぐしゃり。大きな音がする。
 月が昇った。声と一緒に。


――だから、言ったのにな」


 キッチンから、窓の外から、世界中から、悲鳴が夜に吸い込まれていく。偉い学者はもう騒げない。騒いでも誰も気にしない。
 テレビの中で言ってる。
 地球は青い水と緑の星。


 けれども今日から、赤い血と薔薇の星。


        ***


 棘の鎧を脱いだ薔薇。どこかで誰かがそう言っていた。
 鎧じゃなくて剣だったのだけれど、今はそれも過去のこと。薔薇は棘をなくしてしまった。
 だって彼らにはもう要らないから。

 赤い可憐な棘のない薔薇。そんな彼らに誰が名付けた。
 ブラッド・ベリィ・ロゥズ。
 血のように赤い薔薇。
 なんてなんて、安直な名前!

 同じ安直な名前でも、そう、僕が付けるとしたら。
 ブラッド・ファング・ロゥズ。


 血が大好きな、牙持つ薔薇。






"The End. Let's clean up the kitchen, shall we?"
  (これでおしまい。そろそろキッチンの片付けでもしようか?)

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 「ポップ☆でキュートv」な話を目指しました(真顔)。

<03/05/23>
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